「介護が始まると、家計が静かに揺らぎ始める?」
介護が始まると、予想以上にお金がかかる、これは、実際に経験した人しか実感できない現実かもしれません。
介護は、実際に携わったことがある人にとっては「当たり前」でも、まだその経験がない人には、何もかもがわからないことだらけです。
介護費用に関しても、それは同じです。
たとえ、親にある程度の年金や貯金があったとしても、現実にはさまざまな支出が積み重なります。
たとえば、施設への入所費用やデイサービス、訪問介護などの在宅サービスにかかる費用、頻度が増える通院による医療費や交通費、さらに介護を理由に仕事をセーブした場合の収入減。
遠距離介護となれば、移動にかかる交通費の負担も大きく、継続するほどに家計への圧力を感じるようになります。
こうした支出が積み重なっていくうちに、いつのまにか自分たちの家計にも影響が出始めます。
「気づいたら貯金が減っている」という状態に陥るのも、決して珍しいことではありません。
親の介護と自分の老後、板挟みの不安

私のもとには、次のような声が届くことがあります。
「自分の老後資金もあるのに、親のためにお金を使い続けることに不安がある」
「親のためにお金を使うのは当然と思いつつも、将来が不安でたまらない」
「もう、これ以上は出せない」など
ある方は、介護保険サービスの支給限度額を超えてサービスを利用したため、10割の自己負担が発生し、「これ以上は無理です」と、苦しい胸の内を明かされました。
親の介護という予期せぬライフイベントが、子世代の家計にまで影響を及ぼすことは決して珍しくありません。
そして、介護の最大の不安要素のひとつが「期間が見えない」ことです。
生命保険文化センターの2024(令和6)年度調査によると、介護期間の分布は「4~10年未満」が最も多く27.9%、続いて「10年以上」が14.8%と、全体の42.7%が4年以上の介護を経験しています。
つまり、介護が長期化する可能性は高く、それに伴って経済的な負担も増していくという現実があるのです。
だからこそ、「自分の老後資金」と「親の介護費用」のバランスに悩む声が後を絶たないのも、当然といえるでしょう。
まずは制度を「使い切る」ことから考える

では、「親の介護」と「自分の老後」の両立は、どうすれば実現できるのでしょうか。
すべてを自己負担でまかなおうとすると、経済的にも精神的にも限界があります。
だからこそ、まず考えたいのは、公的制度や支援制度を最大限に活用することです。
親が「介護保険は使いたくない」と言うケースもあります。
私の父もまさにそうでした。
自分では介護を受けているという自覚がなかったのです。
介護保険を利用して、生活援助として「部屋の掃除」を依頼していましたが、父はそれを「親切なスタッフの人がやってくれている」くらいに思っていたようです。
このように、介護保険のサービスそのものを親に理解してもらうという壁に直面することもあるでしょう。
介護保険サービスの自己負担には、「高額介護サービス費」という制度があります。
これは、カレンダー月の1カ月あたりの自己負担額に上限が設けられる制度で、長期的な介護において非常に心強い支援です。
さらに、医療保険と介護保険の自己負担を合算して、1年間(8月~翌年7月)に支払った額が一定の上限を超えた場合、負担が軽減される制度もあります(高額医療・高額介護合算制度)。
加えて、公的施設に入所した場合、住民税非課税世帯であり、かつ預貯金などが一定額以下であれば、「居住費」や「食費」が軽減される制度も活用できます。
これらは、特に経済的な負担が重くなりがちなケースで、大きな助けとなる制度です。
税制面でも見逃せない制度があります。
たとえば、「医療費控除」や「障害者控除」。
すぐに思いつかないのが、65歳以上で障害者手帳を持っていない方でも、要介護認定を受けていれば市区町村に申請することで、障害者控除の対象となる場合があるというものです(障害者控除対象者認定書)。
「障害者」と「要介護者」が結びつかないため、この制度が気付きにくい点です。
しかし、この認定を受ければ税法上の「障害者」となり、所得によっては住民税が非課税になることもあります。
しかも、この制度は過去5年までさかのぼって申請することが可能です。
気になる方は、すぐにでもお住まいの役所に相談されるとよいでしょう。
ただし、基準は自治体ごとに異なるため、要介護認定を受けているからといって、必ず該当するわけではありません。
介護は長期戦になることも少なくありません。
その中で、制度を理解し、無理のない範囲でしっかり活用していくことは、経済的な安心につながる第一歩です。
親のお金を「見える化」しておく

親の資産状況を把握しておくことは、子世代が自分の生活を守るうえでも欠かせないポイントです。
いざ介護が始まったとき、「どこに、どれだけの預金があるのか」「年金はいくらで、毎月どんな支出があるのか」といった情報が不明確だと、お金の流れが混乱し、結果的に子どもが負担を背負うことになりかねません。
できれば、親が元気なうちにある程度話し合っておくのが望ましいですが、それが難しい場合でも、少しずつでも情報を整理しておくことが、将来の安心につながります。
親の財産について話すときには、慎重な伝え方が重要です。
「親の財産を狙っている」などといった誤解を招かないよう、自然な切り口で会話を始めましょう。
たとえば、
「もし口座が凍結されてしまったら、どうしよう?」
「知り合いが認知症になって困っていたよ」など、
「備え」や「周囲の事例」を引き合いに出すことで、親御さんも耳を傾けやすくなります。
特に、まだまだ元気で自立している親の場合は、「自分のことは自分でできる」との自負もあるでしょう。
その気持ちを尊重しながら、話し方には細やかな気配りが必要です。
また、親の財産はあくまでも親自身のものである、この前提を忘れてはいけません。
あくまで「万一の備え」として話を進める姿勢が大切です。
実際、「俺の財産にいちいち首を突っ込むな」と返されたケースもあります。
言い過ぎには気を付ける必要があります。
多くの親御さんは、「子どもに迷惑をかけたくない」と考えておられます。
だからこそ、子どもが本当に心配してくれていることが伝われば、少しずつでも話が進む可能性は十分にあります。
実際に、こんなエピソードもあります。
ある方は、親に「そんなに介護費用が心配なら、お前が俺の民間介護保険でもかけておけばいいだろう」と言われたそうです。
しかし、その親御さんはご自身でキャッシュフロー表を作成し、資産をしっかり管理されていました。
そのことを知った子どもさんは安心し、納得されました。
子世代の老後も、今のうちから守っていく

親の介護が現実になってくると、どうしても自分自身の生活や将来のことは後回しになりがちです。
「親のことで頭がいっぱいで、自分の将来どころではない」という声もよく耳にしますが、だからこそ早い段階で家計の見直しを行い、自分たちの将来の支出や老後資金をシミュレーションしておくことが非常に重要です。
介護による支出が続いた場合、自分たちの資産がどのように減っていくのか、何年後にどれくらいの老後資金が残るのかをしっかりと見積もっておくことが、感情的にお金を使ってしまうことを防ぐ手助けにもなります。
さらに、もし遠距離介護をすることになった場合、親から帰省旅費の支援を受けられないことも考えられます。
また、親が施設に入って実家を売却してしまっている場合もあります。
そのような場合、帰省の頻度や地元での滞在費、宿泊費、レンタカー代など、予想以上にお金がかかることが考えられます。
こうした費用を事前に見積もり、計画を立てておくことが大切です。
親の介護にかかる費用を見積もりながら、自分たちのライフプランを再設計することが必要です。
親の介護だけでなく、子世代自身の将来にも直接的に影響を与えるテーマであるため、今のうちから備えておくことが非常に重要です。
親の介護にかかる費用を見積もりながら、自分たちのライフプランを再設計する必要があります。
親の介護だけでなく、子世代自身の将来にも直接的に影響を与えるテーマであるため、今のうちから備えておくことが重要です。
まとめ

親の資産の活用と無理のない支出管理が重要です。親が高齢になると認知症のリスクも高まり、預金の出し入れが制限される可能性があります。
そのため、万が一の備えとして信頼できる家族に任せる準備や、任意後見制度、家族信託などを早めに検討しておくことが大切です。
これにより、いざというときに財産管理の混乱を避けることができます。
また、介護費用と老後資金の両立には感情だけでは乗り切れません。
親を思う気持ちは大切ですが、無理のない範囲で支出をコントロールし、公的支援を活用しながら介護と向き合うことが求められます。
「親のために自分の老後を犠牲にするのか」という問いかけではなく、「親にも安心を、自分にも余裕を」というバランスを意識することが、これからの介護には必要な視点なのかもしれません。
介護は突然始まり、そして長く続くかもしれません。
そのなかで「親にも安心を、自分にも余裕を」保ち続けるためには、介護にかかる費用だけでなく、自分自身の生活や老後も含めた全体のライフプランを見直すことが欠かせません。
当事務所では、介護にかかるお金とその備えについて、将来を見据えた「ライフプラン作成コンサルティングサービス」や「介護とお金のそなえプラン」をご提案しています。
親の資産の管理や公的制度の活用を含め、感情だけでは判断が難しいお金のことを、一緒に整理してみませんか?
初回のご相談は20分無料で承っています。どうぞお気軽にお問い合わせください。
また、介護や生活に関するさまざまなテーマについて、介護ポストセブンでも取り上げています。こちらの記事もぜひご覧ください。
メディア掲載実績
私のコメントや情報提供を行った記事が、以下のメディアに掲載されています。詳しくはこちらをご覧ください。
【最近のご相談例】
・介護費用がどれくらいかかるのか不安(50代女性)
・親の遺言書・生前贈与について(40代男性)
・資産運用について基本を整理したい(60代女性)など
【過去の一部の相談事例】
・介護費用に関連する補足給付について(50代女性)
・医療費控除の概要について(50代女性)
・親の有料老人ホームの費用に関するキャッシュフロー表作成(50代夫婦)
・親の収入や資産から子どもへの援助に関するキャッシュフロー表作成(50代女性)
・親の保険と介護費用に関するご相談(50代女性)
・自宅の民事信託の活用と概要について(50代男性)
・所得控除と介護費用の関連について(60代女性)
・金融機関の解約手続きについてのご相談(60代女性)
・遺産分割協議書の作成に関するご相談(60代女性)
・親の介護費用と一時払終身保険の活用について(50代女性)
・老後資金のキャッシュフロー表作成(60代男性)
・年金受給に関するご相談(60代男性)など
親の介護、準備できていますか?チェックリスト10

「親が後期高齢者になったけど、何を準備すればいいかわからない…」
そんな方のために、今すぐできるチェックリストをご用意しました!
✅ 親の年金額と貯蓄額を把握している(はい・いいえ)
✅ 親が要介護になった場合、どのくらいの費用がかかるか試算したことがある(はい・いいえ)
✅ 介護費用をどこから出すのか決めている(親の資産・子どもの援助など)(はい・いいえ)
✅ 親の銀行口座や財産を管理する方法(家族信託・成年後見など)を考えている(はい・いいえ)
✅ 親が認知症になったときの財産管理・手続きをどうするか決まっている(はい・いいえ)
✅ 介護施設に入る場合の費用や条件を調べたことがある(はい・いいえ)
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✅ 兄弟姉妹と介護費用や負担について話し合ったことがある(はい・いいえ)
✅ 介護が必要になったとき、誰が主に対応するのか家族で合意している(はい・いいえ)
✅ 親と「介護が必要になったときの希望」について話したことがある(はい・いいえ)
✅ 「はい」が0~5つの方へ
介護費用や生前対策が不十分な可能性があります。
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