父がアルツハイマー型認知症と診断されたのは、確か76歳か77歳を過ぎた頃のことだったと記憶しています。
ただ、その時点では日常生活に支障が出るような様子はなく、会話も成り立っており、外から見れば「少し物忘れがある」程度でした。
本人もまったく自覚がなく、「自分はまだまだ大丈夫だ」と思っていたようです。
実際、受け答えはしっかりしていましたし、自分の身の回りのことも自分でこなしていました。
それから数年がたち、80歳を過ぎたあたりから、少しずつ異変が目立ち始めました。
財布をなくす、お金を落とす、家のカギを失くすといったことが頻繁に起きるようになり、食生活も乱れてきました。
独居での生活に危うさを感じた私たちは、父と話し合ったうえで「自立型ケアハウス」への入所を決めました。
要支援認定は受けていましたが、その後は更新せず、あくまで「まだ元気だけど一人暮らしは不安」という位置づけでの選択でした。
父にとっても、あくまで「安全で快適な住まい」という感覚で、「施設に入った」という意識はほとんどなかったようです。
しかし、その後も父の様子は少しずつ変わっていきました。
日々電話で話す中で、「あれ?」と感じることが徐々に増えてきたのです。
話のつじつまが合わない、前に話したことを完全に忘れている、ということが日常的に起こるようになりました。
けれど、本人は自分の状態をまったく疑っていませんでした。
それどころか、「昔よりも元気になった」と言うことさえありました。
その強い自負心が、かえって認知症の進行を見えにくくしていたのだと思います。
いわゆる「ゆるやかな進行型」と呼ばれるアルツハイマー型認知症の経過を、私はこの頃から身をもって体験するようになりました。
そしてある時から、父の状態に明らかな変化が現れ始めたのです
ケアハウスからの連絡

その転機となったのが、ケアハウスの職員さんからの連絡でした。
「最近、トイレに間に合わないことが続いています」と言われたのです。
父は排泄の失敗を隠そうとしたのか、着替えをせずにそのまま過ごしていたこともあったようです。
入浴も以前は、大好きで一番に入っていたのが、入浴もしなくなったり、部屋から出てこなくなったりと、日常生活の中で「これまでと違うサイン」がいくつも出ていました。
職員の方はとても丁寧に伝えてくれました。
「ご本人のことを思うと、この施設での生活を続けていくのがだんだん難しくなってきています」と。
正直、ドキッとしました。
それまで私は、「今のままの生活をしばらく続けられるはず」と思い込んでいたのです。
自分の中では、次の施設のことは「まだ先の話」で、具体的に考えたことがありませんでした。
けれど、このとき初めて、「このままじゃいけない」「次のステージを考えなければならない」と強く感じました。
父の体調や安全面のことはもちろん気がかりでしたが、同時に頭をよぎったのは、「次に行く施設は、今よりも費用が高くなる」という現実でした。
自立型のケアハウスよりも、介護付きのある施設のほうが、どうしても費用がかかります。
それも月額で何万円も違ってくる可能性があります。
親のことを思えばこそ、より安心できる環境を整えてあげたい。
でも、そのためにはお金が必要です。
これまで「なんとなく」しか考えてこなかった「親のお金のこと」を、私はこのときから現実的に、そして真剣に考え始めました。
「今のままでは足りないかもしれない」

ケアハウスにかかっていた費用は、父の年金と少しの貯蓄、そして私たち子どもからの仕送りで、なんとかやりくりできていました。
決して余裕があるわけではありませんが、無理のない範囲で安心して生活できていたと思います。
しかし、認知症の進行にともない、「より手厚い介護」が必要になるということは、イコール、今よりも高額な費用がかかるという現実を意味します。
次に考えるべき選択肢としては、グループホームや特別養護老人ホーム、あるいは有料老人ホームなどがありますが、どの施設にもそれぞれ特徴があり、費用も入所条件も大きく異なります。
さらに、タイミングによっては希望する施設に空きがなく、「とにかく今すぐ入れるところ」を探さなければならない、ということも十分にあり得るのです。
焦って選ぶことは、本人にとっても家族にとっても、本当に望ましい形ではありません。
このとき、私ははじめて「親のお金をどうするか」「この先、生活にどれだけお金がかかるのか」を、具体的に、そして真剣に考え始めました。
父のお金の管理は、まだ本人が自分でしていましたが、少しずつ判断が難しくなってきていることは、日々の会話の中でも感じていました。
親が元気なうちに、ある程度の見通しを立てておかないと、いざというときに慌てて選ばざるを得ない事態になります。
それは「お金の問題」というよりも、父がこの先どんな暮らしをし、どんな環境で最期を迎えるのかという、「人生の質」に直結する選択なのだと、このとき強く感じました。
「なんとかなる」では済まない現実

「何かあったらそのとき考えればいい」「何とかなるでしょ」と思っていたあの頃の自分を、今振り返ると少し無防備だったと感じます。
特に、親がまだある程度元気で、自分のことを自分でできている間は、具体的に備えることの必要性をあまり強く感じませんでした。
「困ってから考える」という選択肢が、どこかに残っていたのです。
でも、実際に介護が現実となると、気持ちの余裕も、時間の余裕も、どんどん削られていきます。
日々の変化への対応に追われ、「一度立ち止まって考える」ということが難しくなっていきます。
施設の選択、医療の判断、介護サービスの調整……それぞれに判断が必要で、しかも待ったなしの連続。
選択肢があっても、そこから「考える時間」が持てないというのが、現実の介護です。
そして、もっとも大きな不安のひとつが「お金」の問題です。
施設の費用が月に15万円、20万円を超えてくると、年金だけではどうにもなりません。
親の貯金が十分でない場合、あっという間に底をつく可能性もあります。
実際、ケアハウス時代はなんとか回っていた家計も、次の施設となると費用は確実に上がるとわかっていました。
それを補うのは、結局、子どもである自分たちです。
そうなると、私自身の家計や生活にも確実に影響が出てくる。
介護は家族全体の生活を巻き込むのだということを、初めて痛感しました。
だからこそ、親がまだ元気なうちに、できる限りの準備をしておくべきだと感じました。
お金の流れを整理する。どんな制度が使えるのか調べておく。高額介護サービス費や障害者控除、住民税の非課税世帯の基準など、調べれば意外と多くの公的支援があることもわかってきます。
一人で調べるのが難しければ、ケアマネジャーや地域包括支援センターなど、専門家に相談するのもひとつの方法です。
そして、必要があれば親とも話し合っておくことも必要です。
たとえ多少気まずくても、「もしものときどうするか」を事前に確認しておくことは、いざという時の選択肢を広げ、家族全員の安心につながるのだと思います。
お金の話はどうしても後回しにされがちですが、実際には「向き合わずには済まされない話」です。
気づいたときには「遅い」ではなく、「気づけた今だからこそ動ける」と思って行動することです。
お金の不安は、早めの行動で軽くできる

私はファイナンシャルプランナーという立場でもありますが、親の介護をきっかけに、初めて「自分ごと」として介護とお金に向き合うことになりました。
情報としては知っていたつもりでも、いざ自分の家族のこととなると、迷いや戸惑い、不安が一気に押し寄せてきました。
中には「知っていたはずなのに、すぐには思い出せなかった」ということもありました。
でも、不安を抱えたままでいるよりも、少しずつでも動き出すほうが、気持ちが整理されていくことを実感しています。
たとえば、費用の見通しを立てる、公的制度を調べてみる、家族と話し合うなど、そんな小さな一歩でも、確実に安心につながっていきます。
このブログを読んでくださっている方の中にも、「いつか必要になる」と思ってはいるけれど、まだ何もできていないという方がいるかもしれません。
私の経験が、そんな方にとって「今からでもできることを始めてみよう」と思うきっかけになれば嬉しいです。
お金の不安は、正しく知って、早めに動くことで、必ず軽くすることができます。
介護が現実のものとなった時に慌てないために、今から準備を始めることが大切です。
私もファイナンシャルプランナーとして、介護費用の計画やライフプランニングなどをお手伝いしています。
もし、不安なことがあれば、無料相談で一緒に話し合い、どんな準備が必要かを明確にしていきましょう。
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