日本では高齢化が進み、介護が必要な人が年々増えています。
令和7年1月末暫定版「介護保険事業状況報告の概要」によると、要介護(要支援)認定者数は、「719.7万人」で、うち男性が230.2万人、女性が489.5万人。
第1号被保険者に対する65歳以上の認定者数の割合は、約19.7%となっています。
令和3年1月末暫定版「介護保険事業状況報告の概要」によると、要介護(要支援)認定者数は、679.2万人で、うち男性が215.0万人、女性が464.2万人。
第1号被保険者に対する65歳以上の認定者数の割合は、約18.6%となっています。
それに伴い、介護費用の負担も大きくなり、多くの家庭で対策が必要になっています。

特に、介護に関するお金のことや制度、手続きについて不安を感じている方が少なくありません。
本記事では、よくある質問に答えながら、介護に関する基本的な情報をわかりやすく解説します。
介護費用はどのくらいかかるの?

介護費用は、利用するサービスや介護の形態によって大きく異なります。
以下は、生命保険文化センターが実施した「2024(令和6)年度生命保険に関する全国実態調査(全体版)」によるおおよその目安です。
なお、介護期間によっては介護費用は大きく変わることに注意が必要です。
- 在宅介護の場合
訪問介護やデイサービスを利用する場合、自己負担額を含めた平均的な費用は月額5.2万円です。
ただし、この金額は要介護度やサービスの利用回数によって変わります。
- 施設介護の場合
特別養護老人ホームなどの入所施設では、月額13.8万円が必要とされています。この費用には、食費や居住費も含まれています。
- 一時的な費用
住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用の平均は、47万円です。このような初期費用も忘れずに見積もることが大切です。
- 介護期間
介護を始めてからの期間(介護中の場合は経過期間)をみると、平均 55.0 カ月となっています。
介護期間の分布をみると、「4~10 年未満」が 27.9%と最も多く、「10 年以上」は 14.8%となっています。
中長期に渡ることが、約4割に達しています。長期化するといっても過言ではありません。
私の親の場合も、母親は約17年、父親も約6年くらいだったと記憶してます。
これらを単純に計算すると、
- 在宅介護の場合:
5.2万円×55カ月に一時費用47万円を加えると約333万円
- 施設介護の場合:
13.8万円×55カ月に一時費用47万円を加えると約806万円
- 在宅12カ月・施設介護43カ月の場合:
(5.2万円×12カ月)+(13.8万円×43カ月)に一時費用47万円を加えると約702.8万円
- 在宅24カ月・施設介護31カ月の場合:
(5.2万円×24カ月)+(13.8万円×31カ月)に一時費用47万円を加えると約599.6万円
- 在宅36カ月・施設介護19カ月の場合:
(5.2万円×36カ月)+(13.8万円×19カ月)に一時費用47万円を加えると約496.4万円
- 在宅48カ月・施設介護7カ月の場合:
(5.2万円×48カ月)+(13.8万円×7カ月)に一時費用47万円を加えると約393.2万円
同じ期間でも、在宅と施設で費用に約500万円もの差が出る場合もあります。
たとえば、在宅2年+施設3年のようなパターンでは約600万円前後が一つの目安となるかもしれません。
なお、介護費用は個人差が大きく、あくまでも参考程度にとどめておきましょう。
施設介護を考え始めるタイミングは?
原因にもよりますが、「一人でトイレに行けなくなったとき」が一つの目安になることが多いようです。
本人や家族の負担感、介護力なども含めて、早めの準備と相談をおすすめします。
介護形態 | 総費用の目安 |
在宅介護(55カ月) | 約333万円 |
在宅48カ月+施設7カ月 | 約393.2万円 |
在宅36カ月+施設19カ月 | 約496.4万円 |
在宅24カ月+施設31カ月 | 約599.6万円 |
在宅12カ月+施設43カ月 | 約702.8万円 |
施設介護(55カ月) | 約806万円 |
介護保険制度はどう使えばいいの?

公的介護保険は、要支援または要介護と認定された方が、費用の1割~3割を負担することで介護保険サービスを利用できる制度です。
なお、親が介護になったら、相談先は「地域包括支援センター」を真っ先に思い出しましょう。
- 要介護認定を申請する
お住まいの市区町村の窓口で申請します。申請後、調査員による訪問調査と医師の意見書を基に審査が行われます。
- 要介護度が決まる
要支援1‒2、要介護1–5の7段階に分けられ、それに応じたサービスが利用可能です。
- ケアプランを作成する
ケアマネジャーが利用者や家族と相談しながら、サービス内容を決めます。
- 介護サービスの利用開始
介護サービス計画にもとづいた、さまざまなサービスが利用できます。
自己負担額は原則として費用の1–3割ですが、収入に応じて変わるため、市区町村で確認してください。
高額な介護費用を抑える方法はある?

介護費用を軽減するために、以下の制度や仕組みを活用しましょう。
月々の利用者負担額(福祉用具購入費や食費・居住費等一部を除く。)の合計額が所得に応じて区分された上限額を超えた場合、その超えた分が介護保険から支給される制度です。
なお、支給を受けるためには、市区町村に申請することが必要です。
多くの自治体では、該当者に申請書が送付されるので、特に老老介護の場合には、出し忘れないようにしましょう。
- 高額医療・高額介護合算療養費
同じ医療保険の世帯内で、医療保険と介護保険両方に自己負担が生じた場合は、合算後の負担額が軽減される制度です。決められた限度額(年額)を500円以上超えた場合、医療保険者に申請をすると超えた分が支給されます。
なお、この制度は1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)になります。
特養などの公的介護保険施設では、所得や資産等が一定以下の人に対して、負担限度額を超えた居住費と食費の負担額が介護保険から支給されるため、自己負担が軽減される制度です。
食費・居住費は月額費用の中で大きな比重を占めており、約6割自己負担が軽減される場合もあります。
- 税制優遇
障害者手帳を持ってなく、65歳以上の方で、要支援・要介護を受けており、市区町村の「障害者控除対象者認定基準」に該当する場合、「障害者控除対象者認定書」で所得税及び住民税の所得控除を受けることができます(各自治体により基準が異なります)。
しかも5年間遡れますので、もし、親が要介護1などになっている場合は、念のため、役所の介護保険課に申請してみてはどうでしょうか。
子どもが親を税法上扶養している場合は、子どもの所得税・住民税が軽減されます。
また、以下のように介護保険サービス費用は医療費控除になる場合があります。
- 居宅サービスの場合
医療系サービスを利用した場合やケアプランに位置付けられた医療系サービスと併用した場合は医療費控除の対象になります。
一方、掃除、洗濯、買い物、調理などの生活援助中心の訪問介護や認知症高齢者グループホームは医療費控除の対象外です。
- 施設サービスの場合
福祉系の介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、地域密着型介護老人福祉施設においては、施設サービスの対価(介護費、食費及び居住費)として支払った額の2分の1に相当する金額が医療費控除の対象です。
医療系の介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院においては、施設サービスの対価(介護費、食費及び居住費)として支払った額が医療費控除の対象になります。
医療費控除はかなり複雑な制度になりますので、サービス事業者が発行する「医療費控除の対象となる金額」が記載された「居宅サービス等利用料領収証」、「指定介護老人福祉施設等利用料領収証」等で確認し大切に保管しておきましょう。
※詳しくは サービスにかかる利用料 厚生労働省
介護に関する手続きはどう進める?
介護を始める際には、以下の手続きが必要です。
- 要介護認定の申請
市区町村の窓口で申請書を提出します。申請は家族や代理人でも可能です。
- 介護サービスの契約
ケアプランに基づき、サービス提供事業者と契約を結びます。
- 費用の支払い
サービス利用後、自己負担分を支払います。原則として、介護保険が適用される部分はサービス事業者が請求します。
申請や手続きは複雑に感じるかもしれませんが、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談するとスムーズに進められます。
介護とお金の悩みは一人で抱えないで!専門家に相談できる窓口一覧

介護や財産管理などに関する悩みや疑問は、以下の窓口で相談できます。
上記でも触れたように、介護については、まずは「地域包括支援センター」に相談するのが基本です。
実際、私自身も遠方に住む親が一人暮らしをしていたとき、地域包括支援センターに助けてもらいました。
私のケースでは、父が認知症と診断されながらも一人暮らしを続けていました。
ある日、父と連絡が取れなくなり、私は離れた場所に住んでいたため、すぐに様子を見に行くことができませんでした。
そこで地域包括支援センターに相談したところ、緊急の可能性があると判断され、特例的に迅速な訪問対応をしていただきました。
すべてのケースで同様の対応がされるとは限りませんが、非常に心強いと感じました。
- 地域包括支援センター
高齢者のお困りごとや介護、地域のサービスについて無料で相談でき、頼りになる存在です。真っ先に相談に行きましょう。
- ケアマネジャー
個別のケアプラン作成やサービス利用の調整をサポートしてくれます。
家計全体を見据えた具体的なアドバイスを受けることができます。
また、親の財産管理や今後の生活設計についても、幅広く相談に乗ってもらえます。
- 行政書士
遺言書や任意後見契約、家族信託など、法的手続きに関するサポートが受けられます。
将来のトラブル予防に役立ちます。
- 終活ライフケアプランナー
医療・介護・葬儀・相続など「人生の終わり」に向けた備えを幅広くサポートしてくれます。気持ちの整理や家族との意思共有にも心強い存在です。
まとめ

介護には、お金や手続きに関する不安がつきものですが、公的な制度や専門家の力を借りることで、負担を軽くすることができます。
まずは、地域包括支援センターに相談し、自分たちに合った方法で少しずつ準備を始めてみましょう。
早めの行動が、ご本人はもちろん、ご家族の安心にもつながります。
また、もし今、親の介護が心配なら、ぜひ一度、「介護とお金そなえプラン」を検討してみてください。
あなたとご家族の未来の安心をサポートします。
介護や生活に関するさまざまなテーマについて、介護ポストセブンでも取り上げています。こちらの記事もぜひご覧ください。
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