親の介護を考え始めると、避けては通れないのが施設入所の決断です。
一人暮らしの親が高齢になり、介護が必要となった場合、家での生活が続けられるかどうか、施設に入ることが最善なのか、とても悩むものです。
この問題に答えは一つではなく、状況によって異なるため、何が最適かを見極めるのは容易ではありません。
しかし、この難しい決断を少しでもスムーズに進めるためには、何を基準に考え、どのように対策を立てていけばよいのでしょうか。
親の健康状態や介護の必要度の把握が第一歩

親が施設に入るべきかどうかを決める際、最初に考えなければならないのは、親の健康状態や介護がどれほど必要かということです。
しかし、この判断は非常に難しいものです。特に遠距離で介護をしている場合には、その判断がさらに複雑になります。
私自身の経験を振り返ると、父はアルツハイマー型認知症と診断されていました。
しかし、本人は「自分は認知症ではない」と思い込んでおり、症状が進行していることにまったく気づいていない様子でした。
電話で話していると、何度も同じ内容を繰り返すことがありました。
たとえば、先ほど話したことを再び初めて聞いたかのように話し出し、「今言ったよね?」と尋ねると、「あ、そうだったか。聞いたような気がするね」と、笑ってごまかしていたのです。
そんなやりとりがありながらも、当時の私は「認知症の初期で、まだ一人暮らしもできるだろう」と思い込んでいました。
実際、帰省して対面で話すと元気そうに見え、施設への入所を真剣に検討するには至りませんでした。
ところが、次第に電話が通じなくなったり、物をなくす頻度が増えたりと、不安な兆候が目立つようになってきました。
食事のリズムも崩れ、体重が急激に減少したことで、「やはり認知症が進行しているのでは」と強く感じ始めました。
そうした中で、地域包括支援センターにも相談し、家族で何度も話し合いましたが、それでも施設への入所には踏み切れませんでした。
やはり、親自身が「自分はまだ大丈夫」と信じており、家族も「まだ何とかなるのでは」と考えていたからです。
施設入所には、家族全員の理解と、誰かの「一押し」が必要なのだと痛感しました。
私たちの場合も、身内の一言をきっかけに、ようやく家族で協力して決断に至りました。
適切な施設選びには、現状の正確な把握が欠かせない

介護施設には、軽度な支援が必要な人から重度の介護を要する人まで、さまざまなタイプがあります。
親がどの程度の介護を必要としているのかを把握することが、施設選びの出発点になります。
私の父の場合は、基本的な日常生活は自分でできていたため、自立型のケアハウスに入所することになりました。
三食の食事が提供され、スタッフも常駐している環境に入ったことで、在宅での一人暮らしよりもはるかに安心感がありました。
思い返しても「決断してよかった」と心から思っています。
施設には、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、特別養護老人ホームなどさまざまな種類があり、公的なものから民間のものまで選択肢があります。
どの施設が最適かを判断するには、親の状態を正しく理解した上で、必要なサポートのレベルを見極めていく必要があります。
自宅での生活が可能かどうかを冷静に考える
施設に入るかどうかを判断する際に、まず冷静に見極めるべきなのが「自宅での生活が本当に継続できるかどうか」です。
親が今の住まいで、安全かつ安定した生活を送れるかどうか、その現実を直視する必要があります。
たとえば、体調が不安定であったり、転倒や事故のリスクが高まっていたりする場合、自宅での生活がむしろ危険となり、施設への入所判断が比較的スムーズに進むケースもあります。
また、親が日常生活の中でどこまで自立しているかも重要です。
家事、買い物、食事の準備など、基本的な生活動作を無理なくこなせているか、一人暮らしを継続できる状況かどうかを丁寧に見極める必要があります。
遠距離介護の場合は「見えない不安」への対応がポイント

近くに家族がいれば、日々の変化を直接見て状況を判断することができますが、遠距離介護となると事情は一変します。
電話では「大丈夫」と答えていても、親が子どもに心配をかけまいとして本音を隠していることも珍しくありません。
離れて暮らしていると、実際の生活の様子が見えにくく、「本当は何が起きているのか分からない」という不安がつきまといます。
こうした場合には、周囲の協力や工夫が必要です。
もし、介護認定を受けている場合は、ケアマネジャーや訪問介護スタッフ等と連携し、親の様子を定期的に確認するのが現実的な方法です。
一方、介護認定を受けていない場合は、民生委員やご近所の方、親の友人など、地域の人的ネットワークに頼ることが考えられます。
「困ったときに見に行ってくれる人がいるかどうか」は、自宅生活の継続可否を見極めるうえで、大きな要素となります。
そのためにも、日頃から地域とつながりを持っておくことが大切です。
本人が一人暮らしをしている場合、地域とのコミュニケーションがあるかどうかで、いざというときの支援体制が大きく変わります。
さらに、定期的なビデオ通話を取り入れることで、顔色や部屋の様子から間接的に生活状況を把握することも可能です。
言葉だけでなく、映像から得られる情報も判断材料として有効です。
遠距離介護では、限られた情報をどう集め、どう評価するかが大きなポイントになります。
直接見に行けないからこそ、多角的な視点から日常の様子を捉え、施設入所の判断を慎重に行うことが求められます。
費用面の現実と将来の見通し

施設に入るかどうかを決める上で、避けて通れないのが費用の問題です。
介護施設の入所費用は施設によって異なりますが、一般的には月額費用がかなりかかります。
また、親の年金や貯金、さらには家族がどの程度支援できるのかによって、施設への入所が現実的かどうかが大きく変わります。
親がどのように費用を賄うか、また長期的に支払いが可能かどうかをシミュレーションすることが重要です。
年金収入が限られている場合や、親が持っている資産が少ない場合、家族の負担も大きくなります。
そのため、子どもがいくら支援する必要があるのかを事前に確認し、家計への影響を最小限に抑えるための対策を講じる必要があります。
家族との協力体制がカギ

施設入所を検討する際には、家族全員で協力体制を築くことが重要です。
まずは、お互いの現在の状況や考え方を理解し合い、納得するまで話し合うことが欠かせません。
介護の負担が一人に偏らないようにするためにも、誰がどのような形で関わるのか、役割分担を明確にしておく必要があります。
また、費用負担の分担や、親の希望をどう尊重するかといった点では、意見が分かれることもあります。
そうした場合には、第三者の助けを借りて話し合いを進めるのも一つの方法です。
たとえば、親せきや中立的な立場の専門家などに同席してもらうことで、冷静に話を整理しやすくなります。
家族内だけでの話し合いが難航しがちな場合こそ、外部の視点を取り入れることが、円滑な合意形成につながります。
施設の選定と親の意向
施設に入れるかどうかを決めた後は、どの施設を選ぶかが次の大きな課題です。
親の生活の質を保ちつつ、施設の環境が適切であることが求められます。
例えば、施設の立地やサービス内容、介護スタッフの対応などを事前に確認することが重要です。
また、親が入所を希望する施設についての意向も尊重し、できるだけ本人が満足できる場所を選ぶことが大切です。
施設見学を実際に行い、親の気に入りそうな場所を見つけるための準備をすることが、入所後の不安を減らすために欠かせません。
施設見学は、可能な限り親と一緒に行い、親がどのように感じるかを確認することが、満足できる選択に繋がります。
まとめ

一人暮らしの親を施設に入所させるタイミングは、とても判断が難しい問題です。
親の健康状態や介護の必要度、自宅での生活がどこまで可能か、費用の負担、家族との意見調整、さらには施設選びの難しさなど、さまざまな要素を総合的に考える必要があります。
近くに住んでいる場合は、「もう無理かもしれない」と感じたときに、決断を迫られることもあるでしょう。
そのようなときでも、「すぐに入れるから」といった理由だけで即決するのではなく、可能な範囲で複数の施設を比較・検討することが大切です。
また、親と離れて暮らす遠距離介護では、状況の把握や対応に時間がかかり、さらに判断が難しくなります。
周囲のサポートを得ながら、無理のない選択ができるよう体制を整えておきましょう。
介護について不安や悩みがある場合は、まずは地域包括支援センターやケアマネジャーなどの専門家に相談することが大切です。
施設選びや費用のこと、家族との話し合いに迷うこともあるかもしれませんが、早い段階で専門家のサポートを受けることで、スムーズに対応できることも多くあります。
特に、介護費用の中長期的な見通しや、家族間の意見調整、さらには親の財産管理といった複雑な課題に対応するためには、ファイナンシャルプランナーなどの専門家の力を借りることをおすすめします。
将来の不安を少しでも軽くするために、今できることから一つずつ準備を進めていきましょう。
なお、介護が始まる前に、今できる備えをしっかりと整えておけば、将来に不安を感じることなく、親の介護を進めることができます。
また、財産やお金の管理も整理されていれば、万が一の時にもスムーズに対応できます。
今から準備を始めて、介護とお金の不安を解消し、将来に備えたしっかりとしたプランを作りましょう。
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