高齢者にとって自宅を売却することが老人ホームへの入居時においてメリット・デメリットがあります。以下、メリットについて検討してみます。
自宅売却によるメリット
経済的な安定
自宅を売ることによって得られる資金を新しい生活に活用できます。多くの老人ホームでは、入居時に高額な初期費用が発生します。
自宅の売却によって得た資金を利用することで、これらの費用をスムーズに支払うことが可能です。
例えば、高齢の親が自宅を3000万円で売却し、その資金の一部を入居一時金に充てることによって、毎月の経済的な負担が大きく軽減されることになります。
生活環境を改善
手元に売却した資金があるため、生活費や医療費に充てることもでき、さらに充実した介護などを受けることも可能になるでしょう。
維持費がかからない
自宅を売却することで固定資産税などの維持費がありません。仮に、自宅をそのまま持っていた場合、次のような維持費が必要になるでしょう。
固定資産税等:空き家にも課税されるため、毎年一定の税金を支払う必要があります。
光熱水費:水道料金や電気料金は、空き家が未使用であっても、基本料金は発生することが一般的です。
火災保険料:火災保険や地震保険など、自宅空き家を保護するための保険料も考慮しなければなりません。しかも、空き家なので保険料は居住している場合に比べて高くなります。
メンテナンス費用:外壁の塗装や屋根の修繕、シロアリ対策など、定期的な点検や修繕には費用がかかります。
庭の手入れ費用:庭や周辺の植物の管理は、特に放置すると維持費がかさむため、注意が必要です。
清掃や管理費:空き家状態を保つための清掃費や、管理を委託する場合の業者への支払いが発生します。
毎年の固定資産税等は数十万円程度、光熱水費も数万円、さらにはメンテナンス費用として年あたり数万円は必要になります。これに加えて、火災保険料や清掃・管理費用がかかるため、年間トータルでは数十万円から百万円近くなることも珍しくありません。
自宅売却によるデメリット
一方、売却によるデメリットもあります。
- 家族との思いでなど精神的なストレスになる可能性も
長い間住み慣れた自宅を手放して老人ホームに入居した場合、その資金を生活費や医療費などに充てたとしても、自宅を失ったことによる精神的なストレスや不安は計り知れません。
例えば、親が長年住み慣れた自宅を売却する際、多くの場合、調度品や家族写真などが思い出の品として問題になります。
「この家具は私の母から受け継いだものだから売るのは難しい」、「子どもたちが小さい頃に遊んだ自宅を手放すのは辛い」など、つらい感情があるのは当然です。しかも、一度売却してしまうと、元には戻れないので非常に難しい決断になります。
- 自宅売却後は、二度と戻れないなど万一の時帰れる場所がない
老人ホームに入居した後に、どうしてもあわなくて退去しようとする場合、戻れる自宅もないこともデメリットになります。
- 介護保険施設に入所した場合、自己負担軽減の対象外の可能性も
さらに、例えば、有料老人ホームではなく、介護保険施設である「特別養護老人ホーム」に入所できた場合は、どうでしょうか。
仮に、高齢の親が住民税非課税で預貯金もあまりなかった場合、自宅を売却することで、預貯金が増加します。預貯金が増加したことで、食費や居住費の自己負担を軽減できる補足給付の対象外になる可能性があります。
なお、有料老人ホームへ入居した場合は、補足給付は関係ありません。
税金の知識は重要
自宅を売却する際には、税金に関する知識を深めることが重要です。売却後の生活を円滑に進めるためには、税金がどのように計算されるのか、どの特例が適用されるのかを事前に明確に把握しておく必要があります。
特に、売却益に対する課税の詳細や、該当する特例措置についての情報を事前に調査し、理解しておくことが求められます。これにより、予想外の税負担を回避することが可能になります。
また、売却せずに自宅をそのまま維持して、所有者である親が亡くなった場合は、相続税の対象になります。相続税になった場合の税金についても検討する必要があります。
まとめ
老人ホームへ入居する場合、持ち家である自宅の処分は?売却することによって資金の確保ができ、一時金や毎月の費用の軽減になり、充実した介護を受けることも可能になる可能性もあります。一方、思い出の詰まった自宅を失ったことによる精神的な問題や、介護保険施設に入所した場合には、預貯金額によって補足給付の対象外になる場合もあります。そのほかにも税金の問題もありますので、税金については税理士などの専門家に相談するなどして、慎重に検討する必要があるでしょう。