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介護認定と遺言書

介護認定受けると遺言書はムダ?

介護になったら遺言書を書いても無効になるのでしょうか。介護認定を受けたからといって遺言が無効になるわけではありません。要介護認定を受けた原因によります。

つまり、遺言を書く人に遺言能力(意思能力)があるか否かになります。

 

 

要介護とは

 

要介護者と判断されるのは、どのような状態をいうのでしょうか。介護認定は、「介護の手間」の多寡により要介護度を判定するものです。

 

また、運動能力の低下していない認知症高齢者に関しては、認知症加算があり、1次判定の要介護度が1~2区分繰上げることになります。認定結果として、「非該当」、「要支援 1」、「要支援 2」、「要介護 1」、「要介護 2」、「要介護 3」、「要介護 4」、「要介護 5」に区分されます。

 

 

【要介護状態区分等と要介護認定等基準時間との関係】

区分

要介護認定等基準時間

非該当

25 分未満

要支援 1

25 分以上 32 分未満

要支援 2・要介護 1

32 分以上 50 分未満

要介護 2

50 分以上 70 分未満

要介護 3

70 分以上 90 分未満

要介護 4

90 分以上 110 分未満

要介護 5

110 分以上

 

要介護度は次のような状態です。

  • 「要支援状態」

日常生活上の基本的動作については、ほぼ自分で行うことが可能であるが、日常生活動作の介助や現在の状態の防止により要介護状態となることの予防に資するよう手段的日常生活動作について何らかの支援を要する状態

 

  • 「要介護1

要支援状態から、手段的日常生活動作を行う能力がさらに低下し、部分的な介護が必要となる状態

 

  • 「要介護2

要介護1の状態に加え、日常生活動作についても部分的な介護が必要となる状態

 

  • 「要介護3

要介護2の状態と比較して、日常生活動作及び手段的日常生活動作の両方の観点からも著しく低下し、ほぼ全面的な介護が必要となる状態

 

  • 「要介護4

要介護3の状態に加え、さらに動作能力が低下し、介護なしには日常生活を営むことが困難となる状態

 

  • 「要介護5

 

要介護4の状態よりさらに動作能力が低下しており、介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態

 

※参考 厚生労働省 介護認定審査会委員テキスト2009改訂版(令和3年4月改訂)

介護認定を受けるまでのプロセス

なお、この認定を受けるためには、次のようなプロセスを踏む必要があります。

1.        地域包括支援センターまたは役所の介護保険課で要介護(要支援)認定の申請

 

2.        認定調査+主治医の意見書

l  認定調査は、全国共通の調査票を用いて、市町村の職員などが本人と家族から聞き取りを行い、調査票を作成します。

l  主治医の意見書は、申請書の主治医の欄に名前のある医師に通常、市町村から意見書の提出が依頼されます。

 

3.        審査・判定

一次判定結果(コンピュータ判定)の結果と調査票の特記事項、主治医の意見書をもとに要介護認定を決定します(二次判定)。

 

4.        認定・通知

申請から約30日後に「認定結果通知書」と「保険証」が郵送されます。そこで、認定結果や有効期限を確認します。

 

5.        ケアプランの作成

認定結果をもとに「要介護1~5」の方は居宅介護支援事業者と話し合い、ケアプランを作成します。「要支援1・2」「非該当」の方は地域包括支援センターが窓口になります。

 

6.        介護サービス開始

ケアプランにもとづいて在宅や施設で介護サービスを開始します。

 

※参考 厚生労働省 介護サービス情報公表システム

 

遺言書の種類は3つ

遺言書には、普通の方式として、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。実務上よく利用されるのが、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」になります。

最も手軽で費用がほとんどかからないのが特徴です。作成するハードルが低い分、「無効になったり」、「争いのもとになりやすい」といえます。

 

遺言したい内容を公証人に伝え、それを公証人が書面にしてくれる遺言です。不備による無効の心配もなく、安全確実な遺言が作成できます。ただし、手間がかかったり、費用がかかったりします。

 

※参考 日本公証人連合会 自筆証書遺言と公正証書遺言の相違

認知症による遺言能力の有無

介護認定を受けた原因の一つが認知症であった場合、遺言はどうなるのでしょうか。遺言能力で最も問題になるのが、遺言時に意思能力があったか否かという点になります。つまり、遺言者が遺言内容を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力を有していたかという点です。なお、成年被後見人の遺言については民法973条に規定されています。

民法961条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

民法963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

遺言能力の有無の判断は?

遺言能力の有無は総合的に判断されます。大きくは、「改訂長谷川式簡易知能評価スケールなどに基づく判断」、「遺言内容による判断」です。

 

改訂長谷川式簡易知能評価スケール」の検査は、ご自身の年齢、今日の日にちや曜日、いまいる場所、簡単な引き算などの設問があり、30点満点中20点以下は「認知症の疑いあり」とされています。

 

ただし、テストで一定の点数を取っていても、遺言内容が非常に高度な能力を要する場合は、無効になる場合もあります。

 

また、点数が低かったとしても、遺言内容が非常に単純であった場合は、遺言能力を肯定する場合もあります。

 

さらに、一定の点数があったとしても、遺言内容が相続人間で著しく不平等であり、合理的であるときは、相続人等の作為・誘導などによる疑いがあるとして無効になる場合もあります。

対策はどうする?

自筆証書遺言よりも公正証書遺言を強くおすすめします。法律のプロである「公証人」が作成しますので、遺言能力の有無についても確認されます。ただし、公正証書遺言でもその後の裁判で無効になっているケースもあります。

まとめ

介護認定を受けたからといって遺言を書いてもムダではありません。介護認定は、介護の手間の多寡です。遺言は介護の手間(認知症加算あり)ではなく、遺言能力の有無になります。特に高齢者の場合は、認知症だからといって必ず遺言が無効になるわけではありません。遺言書には3種類ありますが、法律のプロである「公証人」の力を借りる「公正証書遺言」をおすすめします。なお、自筆証書遺言をどうしても利用したい人は、ごくごくシンプルな内容にすることや付言事項で財産の分配方法についてのい理由などを記載することをおすすめします。