孫に贈与したいが、介護費用が心配
先日、このようなご相談がありました。
【相談事例】
おばあちゃんは現在85歳、長男60歳、次男58歳です。長男夫婦には子供はなく、次男夫婦には22歳になる一人息子がいます。
現在、おばあちゃんは、長男夫婦と同居しています。収入は、年金収入のみで年間24万円程度です。貯金は、おじいちゃんが残してくれた定期貯金2000万円、普通預金300万円の合計2300万円です。その他には財産は有りません。
おばあちゃんは、元気なうちに次男の一人息子である孫にまとまったお金を渡したいと思っています。ただ、最近、ちょっと物忘れがひどくなっているようで、同居している長男夫婦としては、万一、介護になった場合、自宅での介護はできないので、施設や有料老人ホームを念頭に入れています。
孫にお金を渡して大丈夫なのか、万一、施設に入った場合、どのくらいお金がかかるのか心配でご相談に来られました。
介護費用を念頭にマネープランをたてましょう
【アドバイス】
おばあちゃんが、仮に、85歳時(平均余命(平成30年簡易生命表)は8.44年であることから94歳で亡くなると長めにして計算)に要介護5になり、すぐには、特別養護老人ホーム(以下:特養という)へ入所ができなくて、最初の2年間は有料老人ホーム(月35万円)に入居した場合、35万円×24か月=840万円かかります。
※参考 高齢者向け住まい及び住まい事業者の運営実態に関する調査研究報告書/平成29年3月 株式会社野村総合研究所より「介護付き有料老人ホームの入居期間5年以上が約2割を占めています。」
その後、特養に入所、約7年間で計算すると、特養はユニット型個室で毎月おおよそ15万円必要(施設との契約で金額は異なる)と仮定し、年間で180万円かかります。7年間で180万円×7年で約1260万円必要です。最初の2年間の有料老人ホーム代とその後の7年間の特養代の合計で約2100万円になります(※軽減制度や税金、年金収入などは省略)。
もし、すぐに特養に入所した場合では、9年間で約1620万円となり、有料老人ホームを2年間使った場合とでは、約500万円安くなります。
相続税についてですが、おばあちゃんが亡くなった時には、相続税がかかるか否かを調べる必要があります。法定相続人は長男と次男の2人です。現在、相続税の基礎控除は、「3000万円+600万円×法定相続人」ですので、4200万円以下であれば相続税はかかりません。
よって、2300万円の預貯金なので「まとまった金額」を贈与できる(相続時精算課税制度)を活用するのがよいでしょう。贈与税ゼロで孫にお金を渡すことができます。
孫に渡す金額は、介護費用として1600~2000万円を残し、残額の300~700万円を「相続時精算課税制度」を活用する等で、おばあちゃんの思いを達成することができます。その他にも医療費やお葬式費用なども計上して、複数のパターンをシミュレーションしてみることをお勧めします。また、優先順位をつけることも必要でしょう。なお、認知症で意思能力がなくなると契約行為ができなくなりますので、注意が必要です。※(令和6年から改正:国税庁)相続時精算課税制度を活用する場合は、慎重に検討しましょう。
<令和5年度税制改正により、相続税法及び租税特別措置法の一部が改正>
【暦年課税】
- 生前贈与加算が3年から7年へ延長
- 延長された4年間の贈与から総額100万円控除
節税効果は薄くなりました。
【相続時精算課税制度】
- 基礎控除(110万円)の創設
- 基礎控除内であれば贈与税や相続税はかからない
- 基礎控除内の贈与であれば申告不要
- 土地建物が災害で一定の被害を受けた場合、相続時に再計算
相続時精算課税制度は使い勝手が向上しました。
まとまったお金の贈与は「相続時精算課税制度」
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度。
この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。なお、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者(「特定贈与者」という。)から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。
また、特定贈与者である父母または祖父母などが亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。(国税庁)
生前贈与をする場合、贈与した後に介護費用などが足らなくならないように慎重に検討する必要があります。例えば、おばあちゃんが2000万円も孫に贈与してしまったら、介護に備えたお金が300万円しかありません。もし、特養に入所できない場合、有料老人ホームでは1年3ヶ月で預貯金が枯渇します。
このように、贈与しすぎた結果、介護費用が結局、子供たちの負担になります(※実際の事例をもとにフィクションにしています)。一括で贈与する場合は、くれぐれも贈与額を慎重(ライフプランをたてて)に検討しましょう。
また、おばあちゃんが認知症になる前に預貯金を「民事(家族)信託」にするといいでしょう。万一、認知症になり、おばあちゃんの預貯金が使えなくなると有料老人ホーム代などの介護費用を子供が負担しなければなりません。
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まとめ
贈与する場合は、リスクを慎重に検討しましょう。税務以外にも家族間の不和などで後悔する場合もあるでしょう。ご自身が介護などになって困らないようにプランを立てることが必要でしょう。また、生前贈与する場合は、税理士などの専門家に確認することをお勧めします。