有料老人ホームを選ぶときの心得

「間違いのない有料老人ホームの選び方」の3つの心得

1つめは、【事前に有料老人ホームの情報を集め優先順位を決める】

突然、襲ってくる介護。在宅介護のときから有料老人ホームの情報を収集することが非常に大切です。無料紹介業者も情報収集の一つの手段です。さて、紹介業者の情報を含め情報収集時のポイントは重要事項説明書(※注)の解読です(※注)事業主体、法人の種類(営利法人や財団法人など)、居住権の種類、利用料の支払い方式、従業員数など、施設の重要な事項に関して記している文書で、有料老人ホームに作成が義務づけられています。

  • 介護にかかる職員体制

厚生労働省が定めている「要介護者:介護・看護職員」の最低基準は「3:1」。この割合が少ないほうが手厚い介護・看護体制です。「2:1」以上であれば、合格です。平均は概ね「2.5:1」くらいです。

 

  • 夜間の看護職員及び介護職員の人数

要介護者の人数に対して宿直者を除いた職員の最少人数が概ね「20:1」以内であれば合格です。当然この比率は少ない方が安全です。その他提携医療機関も確認する必要があります。例えば、ホームからどのくらい時間がかかるか、信頼のある病院か・・等です。

  • 入居率

立地や費用等を含めて入居者の満足度を示す基準、もしくは安心できる住まいかどうかを示す基準です。空いているとしても1、2室くらいです。開設1年以上で50%以下であれば要注意です。

  • 職員の退職率・勤務年数・経験年数等

退職率・勤務年数ともに職員・入居者の満足度を示す基準です。待遇や福利厚生等に問題があれば、退職者が多く退職率が高いです。そのため、入居者に対し心の通じたサービスが提供できにくいと言えます。しかも、勤務年数が長いということは、一人ひとりの入居者の好みが分かっており、高いサービスを提供することが可能となります。退職率が50%であれば要注意です。また、経験年数において若手とベテランの人数は半々が理想です。理由は、若手の体力的な部分・瞬発力等、一方、ベテランの技術力等のそれぞれの強みが違うからです。

  • 前年度の退去人数と理由

死亡・医療機関への移動以外の退去人数・理由について注意が必要です。他ホームと比較して多いと、現場だけの問題だけではなく、経営トップの姿勢の問題だと考えられます。

  • 入居一時金の初期償却等の確認

厚生労働省は、2006年4月以降開設有料老人ホームは、入居金返還の引当金として、最低500万円か、返還債務残高のうちいずれか低い方について保全措置をしなければならないと定めています。ただし、2006年4月以前開設の老人ホームには適用されていませんが、2021年4月以降はすべての有料老人ホームが対象になります。次に、初期償却率や償却期間の確認です。ここで要注意は、「償却開始日」です。「償却開始日」が入居日、入居予定日、契約時に取り決めた日・・等に注意してください。途中退去時に入居一時金の返還額が初期償却や償却期間を考慮した金額になるからです。

  • 利用料金に含まれないもの等金額把握。

毎月利用料金の内訳は、家賃相当額、食費、管理費等に介護度に応じた1割負担額までは想像できます。それ以外に、例えば、入浴は週4回以上の時は1回2,100円別途費用として課金され、おむつ代、風邪をひいたとき居室配膳の場合等も同様別途費用がかかります。手厚い介護を受けようとすると1カ月当たり5万以上プラスになる場合もあります。重要事項説明書に記載されてある介護サービス等の一覧表を熟読してください。ご自身の予定月額利用料の範囲内に収まるか否かを十分に検討してください。予定以上の支払いが続くと、支払い困難となり、退去せざるを得なくなります。その時に入居一時金は償却等によりほとんど返還金がない場合があります。新たに老人ホームに入居するときに、再度、高額な入居金を払う必要があり、現実的に困難です。 

【第1のカギは】

重要事項説明書を解読できるようになる。

 

2つめ、【長期視点で老人ホームの雰囲気を読取

ソフト面等を実感するためには、有料老人ホームを見学します。施設見学等予約制のところが多いですが、突然訪問しても施設長等の時間があれば、丁寧に対応してもらえます。突然の訪問時の対応も入居者への接し方等判断材料のひとつです。その後、施設長の熱意あるお話や職員・入居者との楽しそうな会話等を耳にしながら館内案内で「あっという間」に2~3時間くらい経ちます。ここで、今の雰囲気がよいからと決めると何ヶ月後かに施設長の人事異動、職員さん等の退職等により雰囲気がガラリと変わってしまうこともあります。一旦入居すると最後までの住まい(終の棲家)となりますので、長期視点で老人ホームの雰囲気を見るということが大切です。

 

ポイントは職員さんの定着率です。職員等の定着率が高いということは、職員の満足度は高いということです。職員の満足度が高いと入居者に対するサービスも質も高くなります。入れ替わりが少ないので将来においても安心感があります。例えば、見学時等で「職員さんにここで何年くらいになりますか?」と聞いてみるのもひとつです。また、ヒアリング時に採用状況や職員教育等も確認してみて下さい。定期採用、定期昇給、勤続10年以上の職員の割合、職員のスキルアップ等にも積極的であるか否か・・等です。これらは、安心感のある老人ホーム選びの指標のひとつになります。

 

その他のリスク要因は、経営者が変わることです。経営者が変わることにより方針・理念・サービスの質等がすべてガラリと変わる可能性があります。そのためにも、現在の経営母体の経営状況等を調べる必要があります。見学時、経営母体の財務諸表をもらってみて下さい。ポイントは、売上高、営業利益等が対前年で増加しているか、自己資本比率・営業利益率・経常利益率等が同業者と比較して劣っていないか等を調べてみて下さい。

 

他に重要なポイントは、有料老人ホームを長年経営された滝上氏がご指摘されている廊下の幅です。(※参考文献 やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム)幅が広いと車いすでのすれ違いが可能となり、職員の迅速な対応も可能等となります。評価されにくい廊下の幅が経営者の利用者への考え方を表しているということです。

 

最後に、入居者の背景等を知っておくことは重要です。理由は、一旦入居すると既に入居している人たちとの集団生活だからです。要介護度が違いすぎる人、年齢も離れすぎている人が多い・・等になると、快適に過ごすことができなくなります。そのためにも、体験入居は絶対してみましょう。

【第2のカギは】

職員の定着率が高いホームがよいホームです。

 

3つめ、【月額利用料についてさまざまな想像力を働かせる】

「高いホームがよいホーム」とは限りません。「よい老人ホーム」を探すときに、入居金よりも見落としがちな月額利用料です。月額利用料は、重要事項説明書から、家賃相当額、食費、管理費等に介護度に応じた1~3割負担額、その他サービスを追加することで課金される部分を確認できます。ただし、入居中に想定外のことが起こります。想像力を働かせて施設長等に面会時に確認することが重要です。具体的には、入所中に転んで怪我をして入院することになった場合の月額利用料についてです。一般的には、食事代は欠食分について月額利用料から差し引かれ、その他の減額はありません。ただ、ホーム側の不注意等により入居者が怪我で入院をした場合でも月額利用料を支払う必要があるのでしょうか?確認をしてみて下さい。施設長からも事故防止等の取り組みや意識等のお話が聞ける場合もあります。事故対策等も力をいれている等、入居者としても安心ということになります。また、入院費や治療費もどのような場合であれば、ホーム側が負担してくれるのか等も合わせて確かめる必要があります。もし、仮に入院した場合、病院への入院費とホームへの月額利用料とダブルでの支払いとなり経済的負担はかなりのものになります。入居前にしっかりと最悪の事態を想定して確認する必要があります。

【第3のカギは】

月額利用料の内容や支払い要件を理解することです

この3つのポイントをチェックしながら終の棲家を探してみてはいかがでしょうか。

【主な参考文献】親の入院・介護が必要になったときに読む本(豊田真弓著、日本実業出版社)、おかげさま老人ホーム選びの掟(外岡潤著、ぱる出版)、 絶対に失敗しない有料老人ホームの選び方

(上岡榮信著、河出書房新社)、 親が70歳を過ぎたら読む本(村田裕之著、ダイヤモンド社)、 介護疲れを軽くする方法(NPO法人介護者サポートネットワークセンターアラジン著、河出書房新社)、介護の値段(結城康博著、毎日新聞社)、やっぱり終のすみかは有料老人ホーム(滝上宗次郎著、講談社)、 自衛する老後(河内孝著、新潮社)、 PRESIDENT(プレジデント社)、介護のことがよくわかる本(プロトメディカルケア)